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目次
作品紹介
簡単に言うと物語の物語ですね。
主人公の素が蜜柑屋という古書店で3つの未完成で終わった小説を進めながら、封印した過去と向き合っていくお話。
3つの物語を進めていき、希(物語のヒロイン)に好意を寄せていくか、繭実(現実のヒロイン)に好意を寄せていくかでエンディングが変わってくる。
最後に物語を完結させるかさせないかの選択をしてエンディングに移行するわけだが、小説寄りの物語完成ED、物語未完ED、中途半端な物語完成ED、物語未完ED、現実ED1、2の6つが本作のEDの種類となる。
お気づきのとおり、この作品「蜜柑」は「未完」をテーマにした作品です。
気に入った点
物語に主人公の感情を反映させること
本作のヒロインの立ち位置により、主人公がその子をどう思っているか分かります。
希・名前の通り希望です。繭実を失って絶望した主人公が、希望を見出すために作り上げた物語のヒロイン。繭実を元にして作り上げたヒロインである為、彼女に似ている。これに囚われるかどうかが、本作の鍵となります。
繭実・主人公の最も甘く酸っぱい記憶。実在した主人公の恋人であるが、亡くなってしまったことにより、記憶を封印してしまう。
それでも無意識のうちに物語に登場させてしまい、封印した記憶が解ける恐怖も相まって、不気味な存在として物語に登場する。
物語に希望を見出したい主人公を、物語を歪める存在として苦しめる。
杏・実在する女性。先生。主人公に好意を寄せており、こんな主人公にもフランクに接していることから、主人子も少なからず好意を寄せている様子。
その為あえて物語の彼女は冷徹で無機質な存在として登場する。
瑠璃・実在する女性。杏の娘?
親しんでいるが、特に恋愛感情はなかった様子。その為か、物語と現実も大きく差のない立ち位置である。
このように物語の登場人物から主人公の人物像がとても鮮明に浮かび上がる。自分に好意を寄せている女性は手が届かないと諦め、今は亡き恋人と紡ぎあげた物語のヒロインに逃げるが、恋人の死という辛い記憶に苛まれ、逃避も上手くいかず苦しんでいる。
物語自体も主人公を反映させること
病床にて
病床に伏していた繭実を思い出させる舞台設定。
基本的にほのぼのする会話劇だが、館を彷徨っているうちに様々な場所に移動させられているのは、物語と物語、記憶を繋いだり、繭実と暮らした館を思い出させる鍵となる。
怨毒の塊
繭実との記憶に対する恐怖が最も浮かび上がる物語。
牢から出られない繭実→主人公の封印した記憶から出られない。
館から逃げられないとい→過去に囚われていて逃げられない主人公。
黒槐の元当主→繭実の患っていた病の具現化?
という印象。
いつわりのおとこ
最も繭実が近しい存在として出現する物語。この物語に繭実との楽しかった思い出を反映させているのだと感じる。
ひたすら繭実が、希と自分を比べたがるのも現実と空想が対立しているようで面白い。
いずれにしても繭実が登場してから歪まされた物語であり、その歪みというのが物語を良くない方向へ進める一方で、物語から繭実との過去を思い出させようとするものである。
感想
最高でした。まさか朱門先生最初のエロゲ作品が、私が最も好きなジャンルである物語の物語だとは思いませんでした。
主人公は自分のことを語らず、物語が主人公をこの上ないほど鮮明に語っているつくりがたまりません。その為、考えれば考えるほど「この部分はこういう主人公の感情が現れているのでは無いか」といった考察をすることができ、無限に深い作品になっていく、まさに傑作だと感じました。