天使憑きの少女 感想
ブランド Nail
本作は4つの章から構成されている奇跡の物語です。
第1章
本作の主人公(浦上真里亜)は養護教諭(秋山先生)と出会い、両親を医療ミスで失ったこと、その執刀医(幹原)に復習することを打ち明け、秋山先生より一丁の拳銃を手渡されます。
そして、復讐を決行しますが、死天使に4発の銃弾を防がれ、残りの1発で自殺しようとしたところへ入院中の少女(相葉澄香)か駆けつけ、復讐は失敗に終わります。
この一連の事件が、真里亜と聖天使(秋山先生に憑いていた天使)や死天使、そして相葉澄香との出会いであり、今後の奇跡へと繋がる始まりの物語です。
感想
第1章は天使がかなり胡散臭く(真理亜に拳銃を渡しましたし…)、続きがどうなるのか気になるストーリーでした。
個人的に気に入った部分は秋山教授の人でありながら人ならざる雰囲気の描写です。
まだ何も知らない読み手にとって、序盤からこうも読ませる要素があると、作品に期待する気持ちも跳ね上がりますね。
第2章
10年後、真里亜が研修医になったところから始まります。
健助に好意を抱いている紗雪は、奥手な性格ながらも勇気を持って彼に告白しますが、結果は玉砕。健助には幼なじみの睦美を事故で失った過去があり、自分に言い寄ってくる女子を煩わしく思っていたのでした。
そこで、幽霊になった睦美と死天使は、なんとか紗雪の恋を実らせ、健助の抱く睦美への未練を断ち切ろうとします。(睦美は幽霊なので紗雪からは見えない)
そんな中、普段地味で目立たない睦美が健助に告白したことで、彼女に対するいじめが始まり、もう1度健助に振られる等、彼女にとって良くないことが立て続けに起こり、睦美の励ましもありましたが、紗雪は学園の屋上から飛び降りようとします。
そこに駆けつけた健助と話し、それでも飛び降りた紗雪を死天使が助け、結果的に紗雪と健助は結ばれます。
それを見た睦美はこの世への未練が無くなり、成仏します。
感想
2章はかなり気分の沈むストーリーですが、終盤は感動しました。自信なさげだった紗雪も健助と結ばれる際には良い顔をするようになっていましたし、睦美が成仏する描写も良かったです。
個人的なお気に入りは鳥になった睦美が、ひたすら言葉の通じない紗雪を励ますシーンです。
第3章
時系列は2章の少し後、生徒会の輝明は会長の絵里香に馬車馬のようにこき使われる生活を送っていました。
そんな中、次の生徒会長を決める選挙が近くなり、立候補者を確認しますが、どうにもしっくりきません。
そこで、会長の妹である澄香なら生徒会長に相応しいのではないかと考え、彼女を勧誘します。
澄香も絵里香にあこがれており、生徒会長に推薦されたことを喜び、その話を受けます。
しかし、姉の絵里香は猛反対。澄香は心臓病を患っており、極度の緊張や興奮は彼女の身体にとって良くないものだったからです。
しかし、澄香の担当医である真里亜は意外にも肯定派、妹想いの絵里香もそれを聞いて渋々折れます。
そんな中、生徒会長の選挙が近くなり、澄香は立候補者とも関わりを持っていきます。ここまでは比較的順調でしたが、ある日立候補者の1人である男子生徒が澄香を侮辱したことで絵里香が怒り、絵里香を止めようとした澄香が心臓の発作で倒れてしまいます。
病院に運ばれた澄香は一命を取り留めますが、意識は戻らない状態。澄香の心臓を移植するドナーが見つかっていない現状と、自分のせいで澄香が倒れた事実が重なり、自信を脳死状態にしようと絵里香は自分の心臓を移植して貰うために手首を切ります。
そこに輝明が駆けつけ、絵里香は何とか軽傷。
しかし、心臓の発作を起こした澄香は選挙演説に出られそうにありません。
選挙演説の日、やはり澄香は間に合いませんでしたが、何とか場を繋ぎ、遅れて澄香が到着します。
澄香の演説を終え、澄香が倒れてしまった(真里亜が倒れる想定で準備をしていた)ところで最終章がスタートします。
感想
この章で絵里香と澄香、どちらと結ばれるか選ぶことになりますが、どちらのヒロインも、照明との関係が気に入っていたので迷いました。
この章についてはこんなところですかね…面白いストーリーですが、内容は静かだったと思います。
第4章
この章がこの作品の本懐です。
睦美が事故死した相手側、車の運転手は死亡していましたが、助手席に乗っていた少女は脳死状態でした。
その少女を当時澄香の担当医であった幹原先生は、延命処置を行い、澄香の心臓に適用する時期になるまで「保管」していました。
その事実に共学する真理亜は、ドナーが見つからないという状況を気にする反面、「脳死状態の人間の心臓を他の人間に移植するべきか」という問題を先送りにしていましたが、ドナーが目の前に現れたことで、その問題が急に目前にきてしまいます。
今まで積み重ねた奇跡(紗雪の恋や、健助の苦悩等、天使の関わった人の想い)で、完全に紗雪に適合する心臓を目の前に用意され、脳死とは言え生物としては生きている彼女を見捨てて澄香を助けるか、澄香を見捨てて脳死状態の少女をそのままにするか、二者択一の選択に悩みながら、奇跡とは何か、人の命の価値を考えていきます。
感想
物語の最後を飾る章ということもあり、非常に考えることの多く、密度の高い内容でした。
個人的にこの章の
「白い…カーネーション…花言葉…私の愛は…、生きている……」のシーンが気に入っています。この場面で、少女の想いを受け取った真理亜が心臓移植の決心します。
年数が経ち、魂の鮮度も失って感覚も殆ど残っていない中で、真理亜の想いを受け取った少女の出来る限りの答えを真理亜が受け取るというところに感動しました。
全体の感想・総評
最初はかなり評価に迷う作品でした。確かに伝わってくるものは素晴らしく、聖書を引用した内容も良いつくりでしたが、作品の盛り上がりが控えめで、作品から受けた印象が静かすぎると感じたからです。
しかし、全体で人の在り方という一本の大きい柱を、心臓移植に関する葛藤や、人の想いの生み出す奇跡等の要素を考えながら見る物語は、心の奥に入っていく感触がありました。
この記事を書いたのは本作を読んで少し経ってからになりますが、ワンシーンを思い出すだけで、鮮明にこの作品の人の温かさが心に広がっていきます。
心の奥底にいつまでも根付くような素晴らしい作品でした。