ブランド たまソフト
内容
主人公の浩は両親と上手くいっておらず、兄のことは尊敬しており良い関係を築いていたが、家の中での居心地は悪かった。
学校も転校したばかり、それも関東から関西ということで、元々関西には住んでいたものの、なかなか馴染めずにいた。
そんな中、音楽室から少女(智子)のピアノと歌が聴こえてくる。
智子は親しくなり、幼なじみ達がいる軽音楽部に2人で入る。
智子も学校も仲の良い人はおらず、一人暮らしをしており、浩に親近感のようなものを抱いている。
そんな2人を中心にした青くさい青春物語です。
感想
今までやってきた青春物語は少なくありませんが、若さということにおいてこれほど共感できた作品はなかったように思います。
この作品を見た時に、まず気になるのは「世界ノ全テ」というタイトルでしょう。
壮大なイメージのあるタイトルなので、私もどういった物語を展開していくのか気になっていましたが、描かれていたのはむしろ小さく狭い、手の届く範囲が世界の全てだと思い込んでいる少年少女の青さでした。
思春期の少年少女が自分の殻に籠ったような、趣味や活動などの小さな世界を自分の全てだと思った経験は多くの人がしていることではないでしょうか。
そういった思春期の心情を的確に描いた場面は数多くありますが、その中でも物語の終盤、クリスマスに皆で家出をして立て篭ったライブハウスに智子の父親が入ってきたシーンは印象的でした。
そのシーンの内容というのは、
皆いつかは終わることが分かっていましたが、それに目を背けてライブハウスに立て篭り、非現実的な家出生活をします。
その生活の様子は皆終わりを考えないようにしつつ楽しんでいる様子でしたが、遂に心臓病の瑞希の薬が無くなり、智子の父親に居場所が突き止められます。
そして智子の父親がライブハウスに押し入ってきた時、皆でFREE WILLを歌います。
浩はFREE WILLを歌いながらこれまでにあったことを思い返し、それぞれの成長を実感します。
その後智子は連れ戻され、皆は解散し、叱られ、非現実的な立て篭り生活から現実に引き戻されます。
しかし、立て篭ったことで大人達の考えが変わるようなことはありませんでした。
というものです。
この場面の心情描写は非常に丁寧に描かれており、キャラクターの感情をまるで自分が味わっていると思えるほど強く伝わってきました。
どうにもならない現実を前にしても好きなことをやってやるという無力な彼らのせめてもの抵抗に、心の叫びのようなものを感じました。
総評
総評は人の強さより弱さが印象的に描かれていると感じたこともあり、気持ち良く読める物語ではありませんが、描写の鮮明さや丁寧さが際立っており、作品としての価値は非常に高いと感じました。
良い作品に出会えたことを嬉しく思います。